生いたち

【萬年雪醸造元 森田酒造場正面】

森田酒造は私の祖父尚二によって明治四十二年に起業されました。 当特所有していた土地から上がる小作料としての米の利用を考えたようです。尚二は八十九歳にて没するまでの人生を悠々と送った人でしたが、酒造りの基本 として“貧しい商売はするな、利を考えるな、声高に叫ばなければならない酒は造るな”その事を生涯言いつづけた人でした。その精神は父脩一(平成八年没)に受け継がれました。父も又学者肌の人で自身の 納得のゆく酒造りに全身を傾けた人でした。

その祖父に学び、この父に師事した私白身も又二十五歳の時から酒を造ることに 没頭してきたつもりです。しかしながら物造りという仕事は常に自分をかりたて 相当のエネルギーをつぎこまなくては、なかなか持続できないものです。 ましてそれが日常ともなればつい原点を見失って流されてしまう、そんな不安を 四十歳過ぎた頃より常に感じるようになりました。

自分の中に揺るぎないものを植えつけたい、物造りのもっと広い世界を見たい、 そんな想いから物造りに出会う旅に出ました。 色々な所で色々な物に出会い、人に出会い、感動に出会いました。

【萬年雪酒展示 森田酒造場玄関】

平翠軒はそんな旅の途中で生まれてきた、いわば私の後に残った足跡であるように思っています。

平翠軒においては私は呼び込みであり、大道具方であり、黒子です。又お囃子であり、広報がかりでもあり、舞台監督でもあり、花道でみえをきる立役者でもありたいと思っています。 この私が造った舞台の上で自分自身を完全燃焼させたいと願っています。

平翠軒店主 森田 昭一郎